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未公開ライブ映像・本人メッセージ

いつも伊勢正三を応援頂き、誠にありがとうございます。
国内外における新型コロナウイルス感染症の影響により、ライブの延期・中止が続いております中、
本人と相談しまして少しでも楽しんで頂ければという思いから
今回、地元大分「津久見樫の実少年少女合唱団」さんへ伊勢自ら楽曲提供しました「入り江」の
未公開ライブ映像を期間限定公開する運びとなりました。
是非ご覧頂ければと思います。
本人メッセージは下記をご覧下さい。

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「入り江」

 子供の頃、おやつといえば蜜柑(みかん)。
秋にたくさん食べて置けば、冬に風邪をひかないという父の言葉を思い出す。

 早生(わせ)の頃は、外の皮を剥くだけで中の小袋の皮は薄く、そのまま頬張って食べられ
るのだが、季節が進んだ蜜柑は小袋の皮も厚くなって、それごと呑み込むのはやや抵抗があ
り、そんな時は小袋の外側をちょっとかじって穴を開け、そこから果肉だけを「チュー」と吸うよう
に食べるのが果たして行儀のいいものなのかどうかは知らないが、父はいつもそうやってなんと
二十個もの蜜柑を次々に手にしては、剥いた皮と小袋の滓(かす)をテーブルの上に重ね置
いたものだった。

 とても一度にそこまでの数の蜜柑を食べきれなかった僕はそのせいなのか、何度かは風邪を
ひき学校も休んだ記憶がある。

 熱がある時は「後藤散」を服し、母が濡れタオルを絞ってくれたものを額にあて、ただ寝てい
るだけの退屈な時の中で、近所に何かを配達に来て帰るオート三輪のエンジンの音が近づ
き遠去かるのを聴きながら、そろそろ賑やかな昼休みも終わり、午後の授業が始まる空気に
変わる教室の風景を思い浮かべると、ありふれた日常がいかに平和なルーティンであることか
に気付くのだった。

 故郷、大分県津久見市で過ごした少年時代である。


 今こうしてそんな昔を振り返りながら、あらためて何気ない毎日こそ私達に与えられた幸福
であると教えられているような気がする。
 新型コロナ禍で誰もが不自由の日々を強いられることになって初めて、当たり前の暮らしが
いかに有り難きものであるのかを知らされたのだ。

 こんな閉塞感のある日々の中でこんな話を書いたのは、故郷の少年少女合唱団の歌声
が聴こえてきたからだ。
「津久見樫の実少年少女合唱団」
2017年、ある機会があってこの子達と出会い、その歌声に心が動いた。
その場で、僕にオリジナルの曲を作らせて欲しいとお願いした次第だ。

 冒頭に書いたように津久見は潮風が育む蜜柑の産地で、季節になるといくつもの段々畑
に実る果実がオレンジ色のポルカ・ドット(水玉模様)のように見える。
その蜜柑畑の丘を登れば、津久見湾はリアス式海岸に抱かれた入り江である。

 イメージが浮かんだ時、むしろ歌の方からすぐにでも生まれようとしていた。
タイトルは「入り江」。
こんなに素直に歌が書けた時ほど幸せなことはない。

伊勢正三


<ライブ映像>
https://www.youtube.com/watch?v=guumTzVgrhE